救急車の適正利用について考える

昨今、問題になっている救急車の適正利用。
GoogleやYahoo!では、「適正利用」と検索するだけで、「救急車の適正利用について」が上位表示されます。
もしかしたら、日本で1番、不適正な利用がされているものは、救急車なのかもしれません、、、、

批判を恐れず申し上げるのなら、結果だけみると「救急搬送のうちの8割以上はその必要はなかった」という結果になるのではないのでしょうか。
なぜなら、ほとんどの事案で救急処置を行うことがなく、時間的にも一般車両での搬送で支障がないからです。
だからといって、市民に対してそれら全てを「不適正な利用だ!」と呼びかけるのかは別の話です。

適正利用とは

救急車の適正利用とは、緊急に病院への搬送が必要な場合、又は救急隊の適切な処置が必要な場合、若しくはその両方です。

適正利用の例

・突然の激しい頭痛(脳出血など)
・胸痛(心筋梗塞など)
・大量出血
・食べ物が喉に詰まった
・交通事故にあった(強い衝撃を受けた)  など

救急車利用リーフレット 総務省消防庁HP 参照
(リンク先は東京消防庁ホームページから引用)

適正以外は全て不適正なのか

では、適正な利用以外は、全て不適正な利用なのでしょうか。
私はそうではない気がしています。

これは不適正なのか

・子どもの1分間の熱性痙攣
・肩の脱臼
・発熱
・食欲不振
・交通事故にあった(衝撃は少ない)
・精神科の病院で骨折、数日後に搬送先が決まり救急要請  など

体感で申し訳ないのですが、本当に緊急の搬送が必要なものは全体の2割程度ではないのでしょうか。
つまり、8割は緊急性がなく、救急隊の救命処置も必要がない事案なのです。

しかし、それら全てを不適正な利用だ、と決めつけるのは酷な気がします。
なぜなら、市民にはどの症状に緊急性があって、救命処置を必要とするのかわからないからです。

総務省消防庁や各消防本部が呼びかけているのは、明らかに緊急性がないと思われる不適正な利用です。

明らかに緊急性がない

・指先のかすり傷
・靴擦れ
・日焼けが痛い
・蚊に刺されてかゆい など

ようするに、「許容できる緊急性のない救急要請」と、「明らかに緊急性がなく許容できない救急要請」があり後者を不適正な利用と位置づけているのではないのでしょうか。
しかし、その基準は実は曖昧であり、救急隊にとっては両者ともに不適正な利用と思うでしょう。

なぜ適正利用を呼びかけるのか

そもそも、なぜ適正利用をよびかけるのでしょうか。
それは、「救急車が足りないから」です。

本当に救急車を必要としている人に救急車が出動できない、若しくは出動が遅れてしまう、ため適正利用を呼びかけているのです。

人間、いつ何が起こるかわかりません。
病院受診後、「自宅で様子をみて」と医師から言われ、その後、自宅で急変することだってあります。
さっきまで元気だった人が突然倒れるかもしれません。

不適正と思われるような救急要請の中にも、そんな万が一のことがあるかもしれませんが、それら全てに出動しカバーできるほどの数の救急車はありません。
救急隊は、元気な人を念の為に救急搬送をするのではなく、今まさに命がつきそうな人を救急搬送しなければならない存在なのです。

適正利用と適性出動

ここで考えて欲しいことがあります。
総務省消防庁や各消防本部などが「常識的におかしい」と思われるような119通報があったときに、その消防本部等ではいったいどうしていると思いますか。
実は、普通に出動しています。

消防署も行政サービスなので、救急車を要請されたら出動せざるを得ないのです。
稀に、通信員の判断で救急車を出動させずに自分で病院受診ができないか説得する場合もありますが、これは危険です。
前述したように、人間いつ何が起こるのかわかりません。実際に出動させずに亡くなった人もいます。
もし出動させないのであれば、通信員個人の判断に委ねるのではなく、「こういう場合は出動させない」としっかりと明記し、仕組み化する必要があります。
しかし、その仕組み化はどこもできていません。

消防署等は、適性出動ができない立場であるため、市民に対して適正利用を呼びかけているのです。

繰り返しになりますが、救急要請されたら出動せざるを得ないのです。

解決策

これまで記述したように、不適正な利用はそれ自体も問題ではありますが、それ以上に、本当に必要としている人に救急車が出動できないことが1番の問題なのです。

その解決策は3つあります

1.救急車を倍増
2,コールトリアージ(通報時にトリアージ)
3,実質的な救急車の有料化

現実的に将来実行可能だと思われるのは3の有料化でしょう。

基幹病院を受診する際に、「入院を必要としない」「紹介状がない」などの場合は選定療養費という名目で別途料金を必要とする地域が増えてきています。
しかし、この仕組みでは救急車での受診の場合、選定療養費を徴収しない場合があるそうです。
この仕組みを利用して、基幹病院だけでなく、すべての病院やクリニックにおいて救急搬送された場合でも別途料金を加算するのも一つの方法かもしれません。
救急車の有料化ではありませんが、利用者にとっては実質的な有料化になるでしょう。

限りある資源の救急車、本当に必要としている人に救急車が出動できるように、適性な利用が普及されることを願います。

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